Swarm Electronics (群知能エレクトロニクス) ―これから目指す方向
あらゆるモノがネットワークに繋がり,それらが環境から情報を収集し,互いにコミュニケーションし始めるとどうなるだろうか? モノが群として行動し始め,機能を産み出すようになる. 集積回路技術はこのような世界で如何に進化すべきかを考えて,Swarm Electronicsを定義してみました. 1. エネルギーは自給する (Harvesting),2. 何か情報をとる (Sensing),3. 情報をやりとりする (Communication),4. 機能が出現 (Functionality Intelligence). さらにSwarm Technologyと考えると,アプリケーション/システムさらには社会への出口を考えた方向性となります.
異種機能集積技術の研究
我々の周りは,電気・ガス・水道をはじめとするインフラ関係のネットワーク,電話やインターネットによる有線(光)や無線ネットワークが張り巡らされ, かつそれらは常に進化し続け,我々が安心安全,また快適に人としての営みを続けることができている. ネットワークという雲(Network Cloud)の中で,人,モノは結びつけられて我々は営みを続けている. ネットワーク・クラウドにおける情報通信・処理,センシング,エネルギー流通などをつかさどるエレクトロニクスの中核的役割を果たしてきた シリコン集積回路ならびにそのシステムの発展は,微細化による高性能化・高機能化によって牽引されてきた. 最小加工寸法5nmのCMOSデバイスやその集積化に主眼をおいた開発(Miniaturization, ITRS ロードマップではMore Moore)や新規な物理現象に立脚した 新デバイス(beyond CMOS)開発が進められている. 一方で,機能向上のためには狭義の情報処理ばかりではなく,通信機能やセンサ機能との融合による高機能化の方向性がある. 単なる微細化高性能化だけではない「異種機能との融合による高機能化」軸という新規な技術開発である. ITRSロードマップにおいては,微細化軸とは異なる異種機能集積(Integration with diverse functionalities)あるいはMore than Mooreと云われる. 具体的な事例としては,RF通信用チップや部品のワンチップ集積,センサ・検出回路集積,アクチュエータ・回路集積,光技術とCMOS融合技術としての シリコンフォトニクス,バイオ技術との融合による異種機能集積技術を産み出すべく研究開発競争が激化している. これらは既存の技術の単純な組み合わせでできるものではなく,異分野融合による科学的学術的な牽引を必要としている. 本研究では,異分野研究者が協調できるプラットフォームとして構築中のウエハ供給型シャトルサービスによって「異種機能集積チップ開発」を行い, ネットワーク・クラウドで利用されるマルチフィジックス・デバイス(異種機能集積デバイス・チップ)の研究開発を通して「マルチフィジックス・デバイス理工学」 と称される新学術分野を創成することを目指している. 「異種機能集積技術」研究は学内外の異分野の研究者・先生方と連携しながら進めている.本グループでは,その中で情報の伝送に関係する回路技術や, プラットフォーム・インターフェース技術を中心に研究を行っている.
RF CMOS集積回路技術
キーワード: Reconfigurable RF, Scalable RF, MEMS-Enhanced RF
一人一台の携帯電話という状況は,あらゆる『モノ』に通信機能が具備されて行くであろうことを想像させる. 「モノ」に具備されるならばセンサ搭載は当然であり,回路技術としての超低消費電力・超小型化, 電池に頼らない電力供給やエネルギースカベンジ技術も必要になってくる.
通信用高周波集積回路について考えると,まずCMOSは,微細化することで高性能になっているが,動作電圧が微細化と共に低下している. これは絶縁膜耐圧やドレイン耐圧が低下することに起因するが,低電圧動作は負荷容量の充放電電力で消費電力が決まる デジタルCMOS集積回路ではプラスに作用してきた. しかし,アナログ回路応用ではダイナミックレンジの確保が難しくなるという困難さに直結する. 従来の狭帯域通信用回路ではインダクタや容量などの受動素子を利用するが,利用周波数が決まると受動素子の大きさはほぼ決まるため, これらの受動素子によってCMOSチップ上のアナログ回路の面積がほとんど決まってしまう. nHオーダーのインダクタは百μm角以上の面積を必要とするが,最先端CMOSプロセスを利用すると組み込み用プロセッサであれば200μm角程度で実現できる. インダクタの底部にはデジタル回路は搭載できないためチップ上で占めるインダクタの面積ペナルティは極めて大きい. このように,RF CMOS集積回路では受動素子面積がCMOS技術世代に従って縮小することができないので,微細化メリットである経済性を追求できないという課題に直面する. さらには,複数の無線規格にも対応できるような回路技術としてのReconfigurable回路技術,Cognitive通信に対応できるような回路技術が必要となっている. 本研究では,アクティブ素子であるMOSFETだけで構成され,且つワイドバンド動作可能なスケーラブル (Scalable) RF CMOS回路技術の開発を進めている. ここでスケーラブルとは,利用するCMOS 技術世代が進むにつれて,性能はもちろんのこと回路面積も縮小するという意味である. RF CMOS回路の方向性の一つはデジタル回路とのSoC 化である.SoC化にはRF CMOS回路やアナログCMOS回路のスケーラビリティ確保は重要な観点であると考えている.
また,これまで集積回路ビジネスで成功したのは,少品種大量生産できたメモリとMPUだけであるといわれている. 集積回路の微細化が多くの壁に直面しているということは開発の方向性に視点の変化があって良いことを意味している. 破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)が示す考え方は興味深い. ハイエンド市場要求に追従するのではなく,“性能を落として”新規なローエンド市場を開拓してみると,実は持続的な技術開発がいつの間にかハイエンド市場をも 駆逐してしまうという論である. 技術者としては“性能を落として”という部分に違和感を感じるが,CMOS技術開発で考えてみると,最先端CMOSではなくmatureなCMOS技術を利用すると割り切ってみると 「異種機能集積」とはまさにこのDisruptive innovation的である. CMOSとMEMSの融合や,CMOSとパッケージ技術の融合は一つの興味ある出口であると考えている. 本グループでは「MEMS-Enhanced RF回路」と称する,MEMS技術によってRF回路の性能を飛躍的に向上させることを目指した技術の研究開発も進めている.
高速信号伝送技術
キーワード:オンチップ伝送線路配線,高効率信号伝送,高周波測定技術・De-embedding技術(~110GHz)
近年のハイエンドプロセッサにおいては,チップ上に複数のCPUを搭載したマルチコアプロセッサが主流になっている. さらに,学会では数十以上のCPUを搭載しCPU間やCPU-メモリ間をLANのようなネットワークで接続する「ネットワークオンチップ(NoC: Network on Chip)」も発表されている. このようなハイエンドデジタル集積回路の課題の一つは,チップ内・チップ間の配線がシステム全体の性能を律速する要因となっていることである. 例えば,オンチップバス/オンチップネットワークの帯域幅やレイテンシを向上させようとすると多くのバッファ(リピータ)を用いることになり,消費電力が増大してしまう. 本グループでは,オンチップ配線の帯域とレイテンシ,電力効率を同時に向上させるための高速信号伝送回路技術を研究している. 従来のようにデジタル信号を単にCMOSインバータで強引にバッファリングするのではなく,信号のアナログ的振る舞いや配線の電気特性・電磁波特性を十分に考慮し, オンチップバス/オンチップネットワークにアナログ回路・RF回路技術を応用することによって伝送路の実効的帯域や電力効率を向上させる手法を開発している. 具体的には,配線のインダクタンス成分を活用したオンチップ伝送線路配線技術,小面積・高効率イコライジング技術,高速・低電力MUX/DEMUX回路, 金属配線の測定結果から不要な寄生素子成分を除去するDe-embedding技術の研究を進めている.
異種機能プラットフォーム・インターフェース技術
キーワード:Microelectromechanical System (MEMS) 融合化技術,シャトルサービス
Green ICE Initiativeプロジェクト
地球温暖化の回避と社会・産業の持続的な発展に向けて,Green(ローカロリー消費,低環境負荷),Dependable(高機能・高信頼・高安全), ECO(生態系に優しい)な社会神経網(情報網システム)と社会血管網(エネルギー網システム,輸送・交通網システム)のあり方を探る. これにより社会・産業全体の高度化・高信頼化と省エネ・CO2抑制・ECOの両立を図り,持続可能な高度情報・エネルギー社会の実現を目指して 閉塞した経済状況の打開,産業の活性化,新産業創出に資する研究成果を強力な産学連携で達成する.
主な測定装置・研究用機器
● Network analyzer ・Agilent, E8361A & N5260A & N5260-60003/60004, 10M-110GHz ・Agilent, N5245A, 10M-50GHz, 4port ・Agilent, E8364B & N4421B, 10M-50GHz, 4port ・Agilent, E5071C, 100k-8.5GHz, 4port ・Agilent, 8720ES, 50M-20GHz
● Signal generator ・Agilent, E8257D, 250k-67GHz ・Anritsu, MG3700A, 250k-6GHz ・Agilent, E4438C, 250k-6G ・Anritsu, MG3700A, 250k-6G
● Spectrum analyzer ・Agilent, E4448A, 3-50GHz ・Agilent, 8563EC, 9k-26.5GHz
● Vector signal analyzer ・Agilent, 89600S, DC-6GHz
● Signal source analyzer ・Agilent, E5052B & E5053A, 10M-26GHz ・Agilent, E5052A, 10M-7GHz
● Noise figure analyzer ・Agilent, N8975A
● Bit-error-rate test system ・Agilent, Pulse pattern generator, E8403A & E8491B & E4808A & E4861A x8 & E4868B, ~40Gbps ・Agilent, Error detector, E8403A & E8491B & E4808A & E4861A x8 & E4869B, ~40Gbps ・Anritsu, Signal Quality Analyzer, MP1800A x2, 0.1-25Gbps ・Anritsu, Pulse pattern generator, MP1761A x2, 50M-12.5Gbps ・Anritsu, Error detector, MP1762A, 50M-12.5Gbps
● Sampling oscilloscope ・Lecroy, SDA100G & SE-100 x2, ~100GHz ・Agilent, 86100C & 86117A & 86107A, ~50GHz
● Semiconductor parameter analyzer ・Agilent, E5270B & E5287A x4 & E5281B x4 ・Agilent, E5270B & E5281B x8 ・Agilent, E5270A & E5281A x8
● RF prober station x 4
● 基板加工装置 ・MITS, FPZ-31ATHP model 60
● 計算機器 ・計算専用サーバ x 10 (CPU 3GHz x 4 core, 48GB memory), ファイルサーバ等 ・Cadence・Mentor・Synopsys ツール類, HFSS, GoldenGate, MATLAB, Coventor Ware など